• 『サムイくにの おうさま』

    『サムイくにの おうさま』

    NEW

    2026/6/12

    『サムイくにの おうさま』
    うそと むだで できた くにのおはなし

    【絵】
    つぎはぎの王冠をかぶった王さま。
    うしろには、ピカピカして見えるけれど、どこか冷たく空っぽな城。
    空には紙ふぶきみたいな星。
    よく見ると、お城の壁はダンボールやハリボテでできている。

    1ページ

    むかしむかし、
    とても にぎやかで、
    とても さむい くにが ありました。

    そのくにの なまえは、
    サムイくに。

    2ページ

    サムイくにの ひとたちは、
    みんな りっぱに みえたがっていました。

    「ぼくは すごい」
    「わたしは えらい」
    「わたしの ほうが ただしい」

    みんな、
    ちいさな おうさま みたいでした。

    3ページ

    でも ほんとうは、
    みんなの こころの なかに、
    ひとつの ひみつが ありました。

    それは、

    「おもったとおりに ならない」

    ということ。

    4ページ

    やりたいことが うまくいかない。
    ほしいものが てにはいらない。
    かなしいのに、かなしいと いえない。
    こわいのに、こわいと みとめられない。

    そんなとき、
    サムイくにの ひとたちは こうしました。

    ほんとうを まげてしまったのです。

    5ページ

    「だいじょうぶ、これでいい」
    「べつに わるくない」
    「しかたないよ」
    「みんな そうしてるし」
    「わたしは まちがってない」

    そうやって、
    ほんとうの こころに ふたをして、
    じぶんに うそを つきました。

    6ページ

    じぶんに うそを つくと、
    ふしぎなことが おこります。

    うそ ひとつにつき、
    むだが ひとつ、ふえるのです。

    いらない ことば。
    いらない みえっぱり。
    いらない いいわけ。
    いらない がまん。
    いらない たいめん。

    7ページ

    むだは、
    つぎつぎに むだを よびました。

    ひとつの うそを かくすために、
    もう ひとつ うそが いる。
    もう ひとつの うそを まもるために、
    さらに うそが いる。

    やがて まちは、
    うそと むだの つみきで いっぱいに なりました。

    8ページ

    サムイくにの おうさまたちは、
    だれも あやまりませんでした。

    「おうさまは あやまらない」
    「おうさまは つよい」
    「おうさまは なんでも しっている」

    そう いって、
    だれも 「ごめんなさい」を いえませんでした。

    9ページ

    あやまれない おうさまたちは、
    だんだんと
    ひとの きもちが わからなく なりました。

    かなしい ひとを みても、
    「それの 何が 悪いの?」
    と いいました。

    くるしい ひとを みても、
    「じぶんで なんとか すれば?」
    と いいました。

    10ページ

    ほんとうは、
    わからないんじゃ ありません。

    じぶんの ほんとうの きもちから、
    にげつづけていたのです。

    こわかったのです。
    ばれるのが。
    たりないことが。
    できないことが。
    ちいさな じぶんを みることが。

    11ページ

    そのうち、
    サムイくにでは へんな ことばが はやりました。

    「これが へいわです」
    「みんな しあわせです」
    「うまく いっています」
    「ここを のりこえたら きっと だいじょうぶ」

    でも、
    みんなの かおは つかれていて、
    いのちは すこしずつ すりへっていました。

    12ページ

    あるひ、
    くにの はずれに、
    ちいさな こどもが あらわれました。

    そのこは、
    きらきらした ものより、
    ほんとうを みる めを もっていました。

    13ページ

    こどもは、
    おおきな つみきの とうを みあげて いいました。

    「これ、なんの とう?」

    おとなたちは こたえました。
    「りっぱな とうだよ」
    「えらさの とうだよ」
    「せいこうの とうだよ」

    こどもは くびを かしげました。

    「でも これ、
    いいわけの においが する。」

    14ページ

    こどもは、
    おうさまの かおを じっとみて いいました。

    「どうして そんなに つかれてるの?」

    おうさまは おこりました。
    「つかれてなんか いない!」

    すると、そのしゅんかん。
    おうさまの はなが
    ぴょこん
    と、すこし のびました。

    15ページ

    こどもは びっくりして、
    でも まじめに ききました。

    「どうして うそを つくの?」

    おうさまは もっと おこりました。
    「うそなんか ついてない!」

    すると、はなは
    にょき にょき にょきーん!

    みるみる のびて、
    まるで ピノキオみたいに なりました。

    16ページ

    まちの ひとたちは、
    あわてて いいました。

    「だいじょうぶ、なおせるよ!」
    「ちょっと ごまかせば いい!」
    「まげれば いい!」
    「かざりを つければ ばれない!」

    そして みんなで、
    のびた はなを
    ぐいぐい まげて、
    ぬって、かざって、
    なんとか もとどおりに みせようと しました。

    17ページ

    でも こどもは、
    しずかに いいました。

    「もとどおりって、なに?」

    みんなの てが とまりました。

    「まがった ものを かざっても、
    ほんとうには もどらないよ。

    ほんとうに もどるのは、
    しょうじきに なるとき じゃないの?」

    18ページ

    おうさまは、
    はじめて じぶんの むねに
    てを あてました。

    どきどき。
    どきどき。
    どきどき。

    そこには、
    ながいあいだ ふたをしていた
    ちいさな こえが ありました。

    19ページ

    その こえは いいました。

    「ほんとうは こわかった」
    「みとめたく なかった」
    「できないって いうのが いやだった」
    「わるくないふりを していた」
    「つよいふりを していた」

    おうさまの めから、
    ぽろりと なみだが おちました。

    20ページ

    そして、おうさまは
    とても ちいさな こえで、
    でも ちゃんと いいました。

    「ごめんなさい」

    すると どうでしょう。

    ながく のびた はなが、
    すこしずつ、すこしずつ、
    やわらかく ちぢんでいったのです。

    21ページ

    そのひを さかいに、
    サムイくにでは
    ふしぎな ことが おこりはじめました。

    「かなしかった」
    「くやしかった」
    「こわかった」
    「ほんとうは たすけて ほしかった」
    「ごまかしてた」
    「みえを はってた」

    みんなが、
    すこしずつ ほんとうを いうように なったのです。

    22ページ

    すると、
    むだの つみきの とうは
    もう いらなく なりました。

    「いいわけ」の はこは、
    たきぎになりました。
    「みえっぱり」の いたは、
    ベンチになりました。
    「ごまかし」の ぬのは、
    こどもたちの ふうせんになりました。

    23ページ

    さむかった くには、
    すこしずつ
    あたたかい くにに かわっていきました。

    だれかを ふみつけて
    おうさまに なるよりも、

    じぶんに うそを つかずに
    いきるほうが、
    ずっと らくで、
    ずっと つよいのだと
    みんなが しりはじめました。

    24ページ

    こどもは さいごに、
    みんなに こう いいました。

    「じんせいは いっかいきり。
    だからこそ、
    しょうじきに いきていこうよ。」

    「ほんとうの じぶんは、
    いくら まげても、
    なくならないんだから。」

    25ページ

    サムイくにの そらには、
    そのひ、
    ひさしぶりに
    きれいな ほしが でました。

    ながい ながい つきひは、
    まだ これから。

    ほんとうを だいじに する ひとには、
    まだまだ ひろい みらいが
    ひらかれて いるのです。

    裏表紙

    うそで つよくなるより、
    ほんとうで しずかに いきるほうが、
    ずっと じぶんを すきになれる。

    この絵本の核

    この絵本は、要するにこうです。

    願いがかなわない
    だから現実を歪める
    その結果、自分に嘘をつく
    嘘を守るために無駄が増える
    無駄が増えると人生が寒くなる
    王様ごっこでは人は幸せにならない
    誠実さだけが、本当に自分を元に戻す